こころの記憶(その2)同級生A

2017年04月27日

こころ塾の講座や研修では、「多様性の受容」を大切に扱っています。
人はひとりひとり違うことを、たくさんの出会いから学びながら生きています。
そして自分もまた、たったひとりの「私」であることを学んでいます。

人は、ひとりひとりそれぞれの
「こころの記憶」でできています。

失うことから学ぶもの
『同級生A』

高校に入学してすぐ、副委員長に任命されました。
当時、委員長は男子、副委員長は女子と決まっていて、入学式の日に先生が指名しました。

その時、副委員長の役割として、
「もうひとつ あなたをみこんでお願いしたいことがある」と担任の先生に言われました。

それは、同級生のAさんについて、なにかと気にかけてほしいということでした。彼女は、精神が不安定になることがあり、おそらく他の同級生と仲良くすることができないから、あなたが気にかけてくれて、声をかけたりしてほしいと言われました。「わかりました」と答えました。

彼女は別段、他の同級生と比較しても変わったところもなく、地味な雰囲気ではありましたが身なりもきちんと整え、おとなしく真面目そうに見えました。ただ、話しかけても少ない返答だけで、気弱に視線を外すので、会話になりませんでした。それでも、先生の言いつけを守って、いつも気にかけ、事あるごとに声をかけたり、教室の移動の際などは一緒にいたりしました。

そうこうしているうち、最初の試験がありました。成績は、ランキングの一覧になって、廊下にずらりと張り出されました。どきどきしながらそれを友人たちと見に行きましたが、なんとトップは同級生のAさんでした。衝撃的でした。それからも、彼女は常にトップでした。

何故、彼女を気にかけなければならないのか。自分より成績の良い彼女に対するくやしさなのか、どう気遣えばよいのかわからずにいたいらだちなのか、私はどう彼女に向き合えばよいのかわからなくなりました。進級しても同じクラスで、高校二年生の後半になるとAさんは時々、授業中に後方を振り向いたり、くすくす笑うようになりました。私は動揺しました。それから間もなく、彼女は入院しました。

年末、お見舞いに行った担任の先生は、クラスの全員に、Aさんの状態がだいぶ回復したこと、将来の夢を穏やかな笑顔で話してくれたことなどを報告してくださいました。それから、彼女からの伝言があると言って、クラスでも少し目立つ茶髪で、制服もロングスカートにしたり、鞄をぺしゃんこにしていた女子たちの名前を読み上げました。 「Aさんが君たちに感謝しているって。ありがとうと伝えてくれってことでした」と言いました。彼女たちはけらけらと明るく笑って「え~びっくり!」と驚いていましたが、私もすごく驚いていました。 なぜなら、彼女たちはAさんに対し、言いたいことをはっきり言い、時には叱り飛ばし、どんくさいと笑い飛ばしていた自由な人たちでしたから、私は内心「もっと気をつかえばいいのに」と思っていたからです。そして、ずっと気をつかっていた私の事は、どう思っていたのかと哀しくなりました。

年が明けて、退院の日、彼女は病院の窓から飛び降りました。

通夜に行くと、彼女の実家は小さくて、辻の梅の大木が満開でした。白い白い梅の花を見上げながら、彼女のお弁当がいつも白いご飯だけだったことを思い出しました。幼い弟たちが客用の湯飲みを洗っていました。私は彼女になぜか「ごめんなさい」と言って泣きました。

春休み、同級生たちとバイクを連ねて彼女の墓参りに行きました。遠くに海が見える山の中腹にありました。彼女との縁はなんだったのか、彼女の17年間はどうだったのか、彼女が存在していた意味はなんだったのか、みんなで話しました。思い出すと、みんな明るい表情で、笑っていたように思います。「やっと自由になったんかもしれん」と、誰かが言ったのか、私が思ったのか、もうはるか昔話ではありますが、今も忘れないのは、大事なこころの記憶だからなのだと思います。



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Posted by 内木場三保 at 11:22│Comments(0)こころ塾
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